著者:山田玲司
発行:光文社
漫画家の山田玲司さんによる初の新書です。
この本を読むに至ったきっかけは、マンガ喫茶で見つけた『絶望に効く薬』という漫画です。『絶望に効く薬』とは、筆者の山田さんが各界で活躍している人へ希望を求めてインタビューをし、それを漫画に起こしたものです。
この漫画が連載されている『週刊ヤングサンデー』は普段読むことがないので、コミックスを見るまで存在を知りませんでした。ひとたび読んで面白さに気づき、その後既刊の14巻まで一気に読み切ってしまいました。
新書『非属の才能』は、そんなインタビューしている中からヒントを得て書き上げたとのことです。
この『非属の才能』を読んでいて、著者山田さんに関する疑問がようやく解けました。その疑問とは「山田玲司さんはどうしてこんなにも自信にみなぎっているのか」ということです。
周囲からは漫画家をやめるよう否定されてきた山田さん。ただ1人、母方のおばあさんの「みんなはいろいろ言うと思うけど、おばあちゃんは玲ちゃんは漫画家になれると思うよ」という発言が、山田さんの自信になったと述懐しています。
別のページでは子ども時代、お父さんから未完成な人間ではなく、1人の独立した人間として見てもらえたことも書いています。
漫画の中での発言、込められたメッセージ、刺激的で敵を作りかねないものを多く含みます。誤解されて当然の描き方も目に付きます。風当たりも強いだろうと思います。
けれども、幼少期のこういった経験が風当たりにも負けないタフな原動力になっているのだと、非常に納得しました。「無条件の自信」なんだろうと思います。
本書を通して伝えたいメッセージには満足いきました。
数多くの人の影響を受けながらも、それをオリジナルの言葉で一生懸命伝えようとする姿勢に心惹かれます。どこかから引用して切って貼りつけただけの巷にあふれる人生訓なんかより、はるかに力があります。
感心したことの1つに、「読書に対するスタンス」があります。
山田さんは明快に100冊の本を読むよう勧めています。手当たり次第100冊も読めば、人生に影響を与えるバイブルのような本に出会えると断言します。そして気持ちよくこう続けます。
「本なんて読んでなんの意味があるの?」などという人間は、まず間違いなく、続けて一〇〇冊もの本を読んだことのない人間なので、相手にしなくていいだろう。
切れ味鋭く切り込んでいて、ほれぼれする文です。
その後に読者に対し注意を呼びかけていて、この注意が本質的で、非常に気に入っています。その注意とは「文豪の作品を避けない」ことと「解説を読んで作者や時代背景をつかむ」ことを勧めています。「読みなさい」と強く主張するのではなく、「しない方がいい、した方がいい」とソフトに提案しつつも、しっかりとそのメリットを伝えようとしています。
僕自身、文豪の作品への接点がまだまだ少なく、もっと積極的になりたいと思わせてくれました。
全体として伝えたいメッセージに耳を傾ければ、発見がたくさんあります。
細かいところ、些末なところ、論理的な飛躍など目をつくところも多いのですが、そこには目をつむる方が、全体を損なわず読めます。数学で言うところの「逆」「裏」をとって誤解しそうになる表現にも気をつけなければなりません。
それを乗り越えてでも読む価値がある1冊でした。
漫画家デビュー20年を越えて、ますますノリに乗っている山田玲司さん。末永くがんばっていただきたいと思います。
(追伸)
山田玲司さんの文章を読んでいて、形式段落の短さが気になりました。1文1段落になっているところがとにかく多いのです。細かく話題が変わっていきながら、全体で大きな意味を持ち、結論に向かっていく独特の文体。
なんとなく漫画のコマ割を連想しました。1段落が1コマ。いくつかの形式段落から意味段落ができますが、コマを集めてページを構成するのと同じです。
この山田さんの文体、漫画家が書くからこその文体なのでしょうか。いわば「職業病」的なものだととらえていいのでしょうか。他の漫画家の文章にも注目したいと思います。