2009年1月31日土曜日

『金魚屋古書店』(8)

著者:芳崎せいむ
発行:小学館

漫画好きの漫画好きによる漫画好きのための漫画です。
普通の漫画好きから、他に並ぶ者がないくらいの漫画好き(コミックスの帯では「まんがばか」なんて表現をしています)が登場します。「金魚屋古書店」と呼ばれる漫画のみを扱う古本屋を中心に、それぞれのキャラクターたちの生活空間で物語を展開します。物語の核となるのが「漫画」。漫画を捜す話だったり、漫画にヒントを得て物語が進行したり、扱われ方はまちまちです。

そんな漫画ですから、台詞やコマの中にも漫画がたくさん登場します。柱には漫画うんちくも書かれていて、物語に深みを与えます。

8巻(※)まで来ると、主人公以外のキャラクターも多く存在します。この8巻では、主人公をとりまくキャラクターが主役の話が多かった気がします。

個人的には主人公の斯波尚顕の活躍が好きなので、ちょっとものたりなさを感じました。でも、他のキャラクターもそれぞれに個性的なので充分楽しめました。

8巻の最終話が前後編の前編で終わっていて、後編が非常に気になります。やきもきしながら9巻を待ちたいと思います。



(※)本当は「8集」という書き方をしなければいけないそうです。その理由は次の書き込みにまとめます。

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東京23区 図書館制覇!

……というすごい人がいたという話です。
タイトルのような表現をすると、僕が達成したみたいですね。もちろんわざとこんな書き方をしてみたのですが。

僕も学生の頃「東京23区の図書館カードを作るんだ」なんて野望に燃えていたものです。結局野望のまま終わり、近所の図書館と都立図書館のカードしか作っていません。

そんなある日、サイトを適当に除いていたら、『東京図書館制覇!』なんていうウェブページを発見!
なんと、東京23区にある区立図書館すべてを訪問したというのです。東京都江東区に住むTakeniさんという女性の方です。なんという執念。ただただ驚きです。

本好きにとっては本屋もいいけれど、図書館もまたいいものです。本屋ではなかなか出合うことのできない本と出合えるチャンスがあります。本のためにお金をきままに使えない学生の頃には、図書館に相当お世話になっていました。今でこそ、本屋に気軽に飛び込み、気軽に本を買っているのですが、『東京図書館制覇!』の記事を見ていたら、また図書館熱が再燃している自分がいます。再び図書館通いを始めようかな、なんていう自分がいます。

そこまでの情熱はなくても、この『東京図書館制覇!』のサイト、本好きにはたまらないかもしれません。覗いてみると面白いですよ。

ウェブサイト『東京図書館制覇!』
http://www.tokyo-toshokan.net/

ブログ『東京図書館制覇!Blog版』
http://takeni.livedoor.biz/


ちなみに、東京23区ではないのですが、大阪24市の図書館カードを作ったという人がいます。

デイリーポータルZ』というライターが日替わりで面白い記事を書くというサイトがあり、そこでよしざきさんという方が、大阪24市の図書館カードをすべて収集しています。
こちらも読み応え十分。ぜひ、ご覧ください。

『デイリーポータルZ』の記事「図書館カードを作ろう!」
http://portal.nifty.com/koneta05/09/28/02/

2009年1月27日火曜日

ナレッジエンタ読本『中国がわからない!【サクサク現代史!アジア激闘編】』

著者:青木裕司、片山まさゆき
発行:メディアファクトリー

世界史を教えている予備校講師の青木さんと漫画家の片山さんの2人による本です。
片山さんが漫画を描き、青木さんがそれに解説を加える。そして2人の対談によってより深められる。
漫画で楽しく世界史の世界に潜り込め、解説と対談で知識と認識を深めることができます。

この本は『サクサク現代史!』シリーズ第2弾です。
日本のすぐ近くの中国・北朝鮮・韓国。この3国の近現代史がテーマです。

どことなく捕らえどころがない中国と北朝鮮。何を考えているのかよくわからない気味悪さがあります。
でも、その気味悪さは「無知」が引き起こしているのだと、スパッと言い切ります。まずは知るところから始めないと、真の友好関係なんて気付けないと断言します。

実に気持ちいい言い回しです。

世界史の解説本ですが、世界史のフィルターを通して今を伝えたい想いが伝わってきます。つくづく歴史は今を写し出す鏡なんだと思い知らされます。

参考書ではないので、この1冊で受験はバッチシなんていう訳にはいきません。けれども、中高生が本格的な世界史の勉強を始める導入としてバッチシです。また、大人がアジアの世界情勢を知るのにも充分耐えられます。
解説と対談で様々な問題提起がなされます。その問題提起をそのまま受け止めるのではなく、自分の頭で考えることがとても大事だと思います。
この本ではその材料が与えられます。

それにしても、一流の人同士が手を組む、いわゆるコラボの力が生み出す凄さ。ほれぼれするくらい素晴らしいと思います。『サクサク現代史!』シリーズを読んでいると、不思議と興奮してくるのです。

まだまだ日が浅い「ナレッジエンタ読本」ですが、この『サクサク現代史!』シリーズの質は断トツではないでしょうか?

『サクサク現代史!』シリーズはとにかくお勧めです! なかなか版を重ねないので勝手にドギマギしているのですが、個人的に猛プッシュしたい1冊です。
この2人には第3弾、第4弾、…とがんばってもらいたいものです。

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2009年1月26日月曜日

サイエンス・アイ新書『マンガでわかる色のおもしろ心理学2 青い色で簡単ダイエット? 関西人が派手なわけは?』

著者:ポーポー・ポロダクション
発行:ソフトバンククリエイティブ

色彩と色彩心理学を一般の人にもわかりやすく解説した本です。

理論だけに走ることなく、具体的な例や、ダイエットやビジネスなどのシチュエーションで役立つ知識が豊富です。
また、見開き右ページにはマンガになっており、「ミホンザル」と呼ばれるサルたちがおもしろおかしく活躍します。
そして当たり前なのでしょうが、色の解説をするために全ページがカラー印刷されています。とても読みやすくなっています。

どの章もとても楽しく読めたのですが、第2章の「世界で異なる色彩感覚」と第4章の「配色の基本とイメージ」が特に興味深く読み進めることができました。

第2章では国によって色の好みが異なる実態を解説しています。
色の好みは文化や宗教の影響が大きいのは当然として、地理的要因(緯度とか空気の乾燥度とか)の影響もあるとのこと。

そんな背景の違いがあっても、青は比較的多くの国で好まれる傾向があったり、紫が高貴な色として貴ばれていたようです。

太陽といえば日本では赤のイメージが強いかと思いますが、その見方は国際的には少数派。大多数の国では、太陽といえば黄色なのだそうです。

本書ではこれらの傾向に対して、その背景や理由を提示しています。実に納得いく解説で感心しました。

第4章では配色の事例が数多く紹介されてします。白・黒・赤・黄・緑・青と別の色を組み合わせて、単色のときに比べてイメージがどう変化するかがまとまっています。実にわかりやすくまとめられています。

チラシやポスターなどのデザインするのにも参考になりそうです。

非常に勉強になりました。配色についてはもっと深く勉強しようという気になりました。

なお、この本の第1弾にあたる『マンガでわかる色のおもしろ心理学』が、同じサイエンス・アイ新書から発刊されています。こちらもお勧めです。セットで読むと楽しさがより増すこと請け合いです。

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2009年1月23日金曜日

ちくまプリマー新書『友だち幻想 人と人の〈つながり〉を考える』

著者:菅野仁
発行:筑摩書房

この本では、他者(自分以外のすべての人)とどうかかっていくかを考えるヒントが書かれています。

いくつか事例を挙げてみます。

ある集団がいつも一緒にいるからといって仲がいいわけではない、ということを指摘しています。そこにいないと陰口を言われそうで不安だから一緒にいる可能性もあるわけです。
また、「メール即レス」の危険性にも警鐘を鳴らしています。メールを出す側は返事が遅いと不安になり、受け取る側は即レスのプレッシャーがかかっている。お互いに心休まらない状態を作っているというのです。
ここに挙げたような互いに行動を束縛し合うような妙な関係を「同調圧力」と呼んでいます。実にうまい表現だと思います。

若者言葉についても問題を掲げています。
「ムカつく」「うざい」「ていうか」「チョー」「カワイイ」「ヤバイ」「キャラがかぶる」「KY」といった言葉に「コミュニケーション阻害語」と名付けて、その危険性を解説しています。
これらの言葉は、根拠なく感情を吐き出すことができたり、相手の発言に関係なく話題を進めたり、微妙なニュアンスを表現するのを放棄したりしているとのことです。「言葉を得ないと、世界も自分もとらえられない」とはっきり訴え、読書を通して対話能力を鍛える習慣を勧めています。

全体として考えるヒントがたくさんありました。示唆に富んだ本だと思います。
特に、「同調圧力」「コミュニケーション阻害語」などといった、新しく提唱する概念へのネーミングがよくできています。

ただ残念なことに、この本には誤解を生む表現があちらこちらに存在します。

例えば、タイトルの『友だち幻想』。筆者は、自分のすべてを理解してくれる友だちなんていない、そんなことを期待してはいけない、と述べています。そんな友だちは幻想なんだと断定します。この意味で『友だち幻想』というタイトルになっています。
実に歯切れのいい書き方で、これは本文の途中に出てきます。
それを受けてのあとがき。引用します。

「友だちをつくろうとすることなんてしょせん幻想にすぎない、無駄なことだ」
(本文ママ)
「いやいやいや、ちょっと待て!!」と思わずツッコミを入れたくなる急転回。友だち全否定です。主旨が変わってしまってます。
共著ではなく1人で書いているのに、何でこんなことが起きるのでしょう。非常に不可解です。

この著者の菅野仁さんは社会学の教授です。ですが専門用語を極力使わないよう配慮しながら書き進めています。なじみのある言葉を使っているのです。本書の主な対象が中高生ですから、すばらしい配慮です。
しかし、本来の意味と本文中で与えた新しい意味とが混在して登場します。しかも、それらを解きほぐさないとニュアンスが変わってしまう微妙な使い方が多いのです。
僕は読んでいる途中で気付き、そこからスリリングな読み方ができたので、楽しめました。でも大半の読者、特にこの本を必要とする中高生にはそういう読み方は難しいでしょう。

この本で伝えたい主旨を好意的にとれば、納得できることが多く書かれています。しかし、表面的に読み取ると誤解を受け、主旨が変わってしまう危険性を孕んでいます。
その意味では勧めがたい1冊です。実に残念です。

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2009年1月22日木曜日

『社長DEジャンケン隊』(1〜2・完)

著者:現代洋子
発行:小学館

「ビッグコミックスピリッツ」で連載されていた『おごってジャンケン隊』が「ビッグコミックスペリオール」に舞台を移して、リニューアルした漫画です。
今度は各界の社長に話を聴き、そして最後はジャンケン。負けた人が全額を払います。

前『おごってジャンケン隊』から登場している担当編集者の八巻和弘さんが、今回もいい味を出しています。破天荒なキャラクターぶりが遺憾なく発揮されています。
現代洋子さんの描き方でそうさせるのでしょうね。

一回「生八巻」(こう書くと何かの料理みたいですね)を覗いてみたいですね。

現代洋子さんのサイトを見ると、2児のお母さんとしての活躍ぶりも伺えます。ブログの記事を思わず読みいってしまいました。

今はまだ一部の人のみぞ知る状況ですが、今後の活躍を期待したいですね。

現代洋子さんの公式サイト「現代洋子の基礎知識」
http://www005.upp.so-net.ne.jp/gendai/

『おごってジャンケン隊』『社長DEジャンケン隊』私設ファンサイト「ジャンケン隊ドットコム」
http://park7.wakwak.com/~jdc/

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『おごってジャンケン隊』(1〜5・完)

著者:現代洋子
発行:小学館

【画像なし】

毎回、著名人のお勧めの飲食店で食事をしながら話を聴くというインタビュー漫画です。ただ他の漫画と決定的に異なるのは、最後に参加者全員でジャンケンをし、負けた人が食事代をすべて払うという恐ろしいルールがあるところです。まさに身体(財布?)を張ったインタビューです。

もちろん筆者の現代さんが負けることもあれば、ゲストが負けることもあります。芸能人のマネージャーが負ける回もあります。ただ付き添いで参加した人が被害を受ける場合もあります。

領収書なんか切ってもらえません。なんでもその場でビリビリに破かれるとか。

何て言うんでしょう。箱庭を上から眺めているというか、檻の外から動物を眺めるというか。絶対に自分は安全だというポジションから騒動を遠巻きに眺めている感覚。
ジャンケンで負けた人に「気の毒だなあ」て思いつつも、すべてが他人事。他人事ごとなのがなんでこんなに楽しいのでしょう。

負けたときに現れる人柄。誇張も計算もあるのかもしれませんが、ありえないシチュエーションに追い込まれたときの人の姿は見物です。

これは著者の現代洋子さんの取材力・観察力・構成力・表現力によるところが大きいのでしょう。
毎回、ゲストが話す決めゼリフ。これを見せゴマにして、ゲストを魅力的に引き立てます。インタビュー漫画としてもよく出来ていると思います。

メインのゲストに対してだけでなく、同席している人達にも心を込めて描いているんでしょうね。そんな様子が伝わってきます。

ジャンケンに負けた人の惨めな姿を単純に描くのではなく、おいしいように描いてたんのかなと想像しています。

マンガ喫茶で見つけて読み切りました。本屋にはあまり並んでいないかもしれません。古本屋かマンガ喫茶でどうぞ。

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2009年1月20日火曜日

楽学ブックス『オーロラ ウォッチングガイド』

著者:上出洋介
発行:JTBパブリッシング

この本はオーロラ観測を楽しむための知識や技術、オーロラの魅力を伝える、まさにオーロラのガイドブックです。

冒頭にはオーロラの美しい写真が多く掲載されています。これでもかこれでもかとオーロラの写真が続き、そのオーロラのいろいろな姿にただただ驚くばかりです。

オーロラの観測地ガイドまで掲載されているのも他書にない独特な特長です。掲載されているオーロラの観光スポットはこれだけあります。
○アラスカ(フェアバンクス) …「世界一明るいオーロラ」で名高いアラスカ第2の都市
○カナダ(イエローナイフ) …ノースウエスト準州の州都
○カナダ(ホワイトナイフ) …アラスカとの国境近くの街
○スウェーデン(キールナ) …スウェーデンの鉄鋼の町
○フィンランド(ユッラス) …オーロラ鑑賞の穴場
○フィンランド(ロヴァニエミ) …車で10のところにサンタクロース村
○フィンランド(サーリセルカ) …ラップランドの先住民サーメの文化に出会える街
○ノルウェー(トロムソ) …新旧の文化が交じり合う港町

これらの街について、ホテルや食事場所などが書かれている簡単な地図が掲載されています。ただのオーロラガイドに終始せず、オーロラを生で楽しんでほしいという筆者の並々ならぬ意気込みを感じます。

大学教授や研究所に勤める方が書く本は、理論や知識を盛り込んでしまう傾向があります。
でも、この本は違います。
筆者の上出洋介さんも大学教授や研究所に勤めた経歴があるのですが、この本は他の本とは一線を画しています。オーロラを楽しんでもらいたいという一心でこの本を書き上げたのでしょう。サービス精神が旺盛です。
冒頭の美しい写真もそうです。観光スポットを紹介するのもそうでしょう。

オーロラの理論や原理を後半に持ってきているのも見事です。前半で関心を持たせて、後半のその原理を解説する構成には舌を巻きました。あれもこれもと詰め込まずに、もっと知りたいと思うところで本が終わるギリギリのバランスも絶妙です。

ジャンルとしては理工学書ですが、その枠にはまらない面白さがあります。お勧めの1冊です。

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2009年1月18日日曜日

中公新書『マグマの地球科学』

著者:鎌田浩毅
発行:中央公論新社

火山の奥深さをいろいろな観点で解説した本です。噴火の仕組みや火山噴出物、マグマや岩石だけでなく、地球内部の構造や火山がもたらす恩恵、気候への影響やエネルギー問題にまで解説は及んでいます。

専門書ではなく一般書なのですが、火山研究の最先端が遠慮なく盛り込まれているので、読むのには結構気合いが必要かもしれません。
僕の場合は、一気に読み通すことができず、少しずつ読み進めてようやく読み終わりました。購入したのが1月2日だったので、2週間以上かけたことになります。
だからといってボリュームが過度にあるわけではなく、新書ほどの分量です。

とはいっても情報量はやっぱり多いです。なるほどと思うことがたくさんあり、かなり勉強になりました。

中学・高校の理科の先生が読むと授業の幅が広がっていいかもしれません。地学選択者の高校生にももしかしたらお勧めできそうです。あとは科学書好きの人にもバッチリです。

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2009年1月16日金曜日

『アキレスとカメ―パラドックスの考察』

著者:吉永良正
発行:講談社

「アキレスとカメ」のパラドックスを材料に数学と哲学の世界を覗かせてくれる本です。本の半分以上が「アキレスとカメ」の解説か、それにまつわる周辺知識の話です。

「アキレスとカメ」を解説する本はほとんど数学の「無限等比級数の和」に持ち込んでいます。この本もそうでした。

僕は「無限等比級数の和」では「アキレスとカメ」は解決できないと考えています。
この問題を一番見事に解説しているなあと思っているのが、野矢茂樹さんの『無限論の教室』です。僕はこの本以外に満足できる解説に出会ったことがありません。

いつになるかわかりませんが、いつかそんな数学の書き物がしてみたいです。ちょっとした夢です。

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『クリエイターのための3行レシピ 写真撮影のアイデア』

著者:赤荻武
発行:翔泳社

この本は、「きっちり」「まったり」「じんわり」「セクシー」「ゆる」といった雰囲気の写真を撮影するテクニックを解説しています。

ここに収められた写真を見ていると、筆者の赤荻さんは写真が好きなんだろうなというのが伝わってきます。同時にカメラの可能性にも驚かされます。

特殊なカメラを必要とするテクニックも掲載されているので、すべてを真似できるわけではありません。けれども、カメラを持って街に出たくなる、そんな1冊です。

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2009年1月14日水曜日

『パックマンのゲーム学入門』

著者:岩谷徹
発行:エンターブレイン

『パックマン』の生みの親である岩谷さんによる著書です。

始めは、「パックマンズメソッド」と題して、岩谷さんの幼少時代〜ナムコ入社〜初めてのゲーム製作〜パックマンフィーバー〜その後、とその時々の出来事の記録や、岩谷さん自身が感じたことなどが書かれています。
次には「ゲーム学」「ゲーム開発の実際」と題して、ゲーム作りに必要な考え方や素養、プランナー・プロデューサの仕事がまとめられています。
最後は著者である岩谷さんといろいろな方々との対談が収録されています。対談相手は
○宮本茂さん(マリオやゼルダの生みの親)
○小口久雄さん(セガ代表取締役社長)
○糸井重里さん(コピーライター、ほぼ日主宰)
○浜野保樹さん(東大大学院教授、メディア論専攻)
○中村雅哉さん(ナムコ創立者)
とすごい顔ぶれです。

この本には驚きが随所にありました。

『パックマン』の開発のきっかけが1つ驚きでした。

まずは「女性をターゲットにしたゲーム」を作ろうとしたとのこと。
その頃は『スペースインベーダ』ブーム。まさにゲームセンターが男の遊び場になっていたようなのです。
岩谷さんはそれを打破するべく連想を重ねていったようです。
「女性」→「食べる」→食べかけのピザを見て「パックマン」を思い付く。
何とも劇的なエピソードです。

読んでいて「これだ!!」と思った言葉を書き抜いておきます。

○(田尻智さんがパックマンについて…)ゲームデザインのテキスト(教科書)のような存在だと思います。
○「FUN FIRST」=楽しいことが第一。
○普段ゲームなどしない職人さんでも楽しめる内容にする
○(宮本茂さん:)答えを導く要素には、「こういうことをやったらウケるだろうな」というものや、誰もが「なるほど、思いつかなかった」というものと、隙間を埋めるための「誰でも思いつくよ」という三つがあると思うのです。そのなかで「なるほど」という要素が欠けていると、他の部分が幾つあっても良くならないし、少しでもあると、他の要素が引き立つんです。だから、このなるほどの視点のアイディアが一番重要なのです。
○(宮本茂さん:)ゲームは工業製品である
○(小口久雄さん:)その(最後の完成の)イメージを曲げないことを大事にしています。
○(糸井重里さん:)企業の年間キャンペーンの仕事などは一年もつかもたないかが非常に重要なんです。「これはキャッチーでみんなの注目をひくぞ」ということができても、少なくとも一年以上もたないものは表現として失敗なので、その線引きは時間をかけて検証するんです。
○(糸井重里さん:)僕は、欲が深いので、「あいつはバカかっ」っていう瞬発力を求めたいんですが、逆に「もちがいいなぁ〜」っていうのもいわれたいんです。
○ゲームの開発はチームでの仕事なので、私は開発のメンバーのことを毎日ひとりにつき一分考えることにしているんです。そうすれば気づかないことも見えてくるんです。困っている人も浮かんでくるんです。
○(中村雅哉さん:)"知っている"というよりも"好き"だというほうが良い仕事ができるし、さらに"楽しく"できれば最高だという考え方を持っています。

他にもいろいろあったのですが、あとは読んでからのお楽しみで。

最後に、著者である岩谷さんが若手のゲームクリエイターに向けてメッセージを発信している場面が、多く見られたのが気になりました。対談の相手にも幾度となく尋ねています。
現場で若手とベテランのギャップが気になるのでしょうか? それとも次世代がうまく育てられてないのでしょうか?
少し気になった次第です。

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2009年1月13日火曜日

『超恋愛論』

著者:吉本隆明
発行:大和書房

この本では吉本隆明さんの描く恋愛の姿が示されます。吉本さんが経験したり観察して感じたことや、文学における恋愛をまとめあげています。

冒頭では、恋愛の本質は昔も今も変わらず、距離感が変わってきていることを指摘しています。
恋愛の後の次の段階の結婚生活では理想通りになんかいかないと断言します。どこかで我慢が必要なんだと吉本さんは断じます。
その後は三角関係を例に追い込まれた恋愛の果てが、夏目漱石の作品から浮かび上がります。現実、三角関係におちいった小林秀雄と中原中也のことも書かれます。
結婚制度から子の位置の関係、虐待の問題に話は膨らみます。
最後には恋愛を文学として書くとはどういうことなのか、というテーマで締めくくられます。

第1章『「終わらない恋愛」は可能か』の中での、男女の精神の距離の取り方のところで考えがまとまらずにいます。

精神の距離感が遠いところから始まる現在の恋愛と、精神の距離感が近づいてようやく始まる以前の恋愛という2つの違い。吉本さんはこの点が気になっているようです。
現在の精神の距離感が遠い恋愛は、男女が簡単に別れてしまう。覚悟の具合が違うのだろう、ということなんだろうと思います。

その後では、「もてる」「もてない」は恋愛においては意味がなく、特定の相手と細胞がぴったり合うのが大事だと語っています。
誰からももてる人に集中するのではなく、この人にふさわしいのはこの人のように、細胞レベルで合う人が必ずくるとのことです。

「細胞が合う」という表現は、自分の経験に照らし合わせても感覚的に理解ができます。
精神でも日常でもなく細胞を合わせるという表現に吉本さんらしさがあふれている気がします。

ここまで読んで、ああそうだよなあと思っている自分と、いやちょっと待てよとブレーキをかける自分が同居しています。
「精神の距離感」が感覚としてまだ自分の中にストンと落ちてこないのです。

第1章全体を通してみれば、理屈としてそうなんだろう、筋が通っているなあとは思うのです。ただ感覚として「精神の距離感」をつかめずにいるのです。

その後の結婚生活は自分にとってまだ縁遠い内容なので、いつか来るその未来のために心に留めておきます。

漱石などの文学者をめぐる恋愛話も興味深く読めました。
三角関係には、同性の2人の間に切っても切り離せないような精神的な深いつながりがなくてはならない。
確かにこれがないとただの折れ線です。このつながりがあるから三角形を成す、という当たり前のことに軽い感動を覚えました。

第4章『結婚制度のゆくえ』でもゾクッとくる表現に出会いました。

『残酷さは愛情の裏返しである』という逆説的なタイトルが掲げられた節の一節です。

「ですから、もとを正せば、男が連れ子に敵対意識をもつくらい、女性が自分の子どもに愛情を注いでいるということです。」

ここで書かれていることと『残酷さは愛情の裏返しである』という節のタイトルが1本でつながったときに「ああっ」と驚いたのでした。
残虐だから母親が悪い、父親が悪い、なんて一口に言えない深さを感じました。

全体を通して、まだまだ理解し切れていないところもあります。特に、恋愛・結婚を文化的に見た考察の部分を受け止め切れていません。

でも、面白い1冊でした。次の吉本さんの1冊も楽しみです。

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2009年1月11日日曜日

『俺たちの愛したファミコン』

発行:ネクスト

全ファミコンソフトの中から名作(迷作も混じっていますが)を1本1本丁寧に紹介した本です。

ファミコンの生産がスタートしたのは1983年で最後のソフトが販売されたのは1994年ですから、ここにはファミコン12年史が書かれていることになります。

総覧的に全ソフトが紹介されているわけではないので、掲載ソフトには偏りがあります。けれども、その分執筆者の思い入れが強いのでしょう。当時、プレイしていないと書けないような話も盛りだくさんです。

「四方山話」と称されたコラムもユニークな切り口で面白いです。

皮肉ったり、一方的すぎたりするきらいもありますが、昭和40年代から50年代生まれでファミコンに情熱を注いだ人には懐かしめる1冊です。

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2009年1月10日土曜日

目に余るビジネス書の氾濫

街中、特にビジネス街に近い本屋に行くとビジネス書が入口近くにドンと積んであります。きっと売り上げもいいんでしょう。本屋さんが力を入れるのも納得がいきます。

ビジネス書が2つの流れに別れてきている予感がします。
1つは従来からあった「専門領域を深める本」。例えば、プログラマーがプログラム言語を学ぶために本で勉強する。参考書や専門書のイメージが近いのでしょうか。
2つ目が「ビジネスパーソンとしての心や行動のあり方を喚起する本」です。『7つの習慣』なんかが有名です。いわゆる啓蒙書の類です。

最近気付いてきたのが「啓蒙書」のふりをした「似非啓蒙書」が氾濫しているのではないかということです。

本来「啓蒙」とは、中世的な考えから近代的な思想を「ひらく」ものであったはずです。
そこには一定の法則性や普遍性があり、必ずそれを裏付ける何かがありました。
それが思想であり信仰とは違う点なのです。そこが受け入れられているからこそ古典として現在も残っているのです。

「似非啓蒙書」は個人的体験に終始しているのが特徴です。その個人の体験をあたかも法則であるかのようにおおげさに書き立て、「これであなたも幸せになれる」と迫るのです。ひどいときには「これをしないあなたには不幸が待っている」と脅すわけです。
「この壷を買わないとあなたは不幸になる」「今日中にお金を振り込まないと息子が大変なことになる」と同じロジックです。

経験だけではない裏付けに基づいたビジネス書ならばいいのです。しかし、世の中の多くのビジネス書がそうはなっていない気がどうしてもするのです。乱暴に書けば、思想もへったくれもない。自己満足の世界。もしくは聞こえいい言葉を並べて売れればいいのさ、というメッセージにもとれるのです。

一般性や普遍性がないから残らない。だから新しい本が次々と発行される。そして本当の良書が数という名の洪水に埋もれていく。
これはとても不幸なことです。

今や年間に8万点ほどの新書が発行されるとか。1日平均200点以上です。
本屋さんも並べるだけで精一杯でしょう。紀伊國屋書店の方も言っていました、書店員が「これだ!」と勧められる本を紹介するのは月に3冊が精一杯だと。

この事態は流通から変えないと抜本的には変わらない気がします。本好きとしては決して見逃せない問題です。

一読者としてできるのは良書を見極める眼を持つこと。掘り起こした良書を購入すること。その良書、ならびに筆者を応援すること。これに尽きるのでしょう。

この問題、まだまだ考え続けたいです。

『READING HACKS!』

著者:原尻淳一
発行:東洋経済新報社

アウトプットの手段としての読書を効率よく実行するための知恵を集めた本です。

ビジネス書を読むことを勧める本はとかく「量を読むこと」を推してきます。
この本もご多分にもれず同じ系統です。

しかし類書と決定的に異なる点があります。

筆者が元々から本好きではなかった点が存分に活かされているのです。

本の面白さに目覚めるきっかけが克明に描かれています。しかも、かなり理想的に導入されていてこの点だけでも傾聴に値します。
そんな筆者だからきづけたHACKSがここには書かれています。

あとは、考えることを放棄してはいけない、これが唯一の答えなんかではない、など当たり前のことを当たり前のように注意を呼び掛けています。
実に好感が持てます。

本嫌いな人が読んでも安心です。むしろ生粋の本好きよりも本嫌いが読んだ方が発見があるかもしれません。
本好きにとっても「本を読む意味」を再確認させてくれます。

ただここに書かれているHACKSは好き嫌いが絶対に分かれます。万人に勧められるものではありません。否定されるべきものもあります。
「疑いの眼」を持っていれば、ヒントにあふれたいい本です。

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新潮新書『新書で入門 新しい太陽系』

著者:渡部潤一
発行:新潮社

太陽系に属する星々を余すことなく解説した本です。
太陽から始まり、「水金地火木土天海」で覚えた惑星、惑星の周りを公転する衛星はもちろんのこと、小惑星についても書かれています。
そしてハイライトは冥王星です。準惑星という新しいカテゴリーに分類されることになった経緯についてもじっくりと書かれています。

本屋でこの本を手に取ったとき、太陽や惑星の美しいカラー写真に感動を覚えました。肉眼ではただの光る丸にしかすぎない(極端な表現ですが)太陽や惑星が、望遠鏡を通すとこんなにも美しい像を見せるというのが驚きでした。

解説は筆者である渡部さんの文章にぐいぐい引き込まれていきました。
星が好きで好きでたまらない様子が行間からにじみ出ているようでした。

プロローグと称して、太陽系惑星や小惑星が次々と発見されていく歴史を存分に語っています。
その後の本編で太陽から順に、1つの星に1つの章を割きながらじっくり解説しています。
太陽をストーブに例える比喩や、自分の体験談を交えて飽きさせずどんどん読ませるあたりが秀逸です。数値を交えたデータを出すときも、可能な限り図示したり、言い換えてみたり、読者が読みやすくなるための工夫も満載です。

ハイライトの冥王星の章では特に力が入っていたように感じました。

筆者である渡部さんは国際天文学連合(IAU)の惑星定義委員会のアジアからの唯一の参加者だったそうです。冥王星を巡る議論の一部始終を目の当たりにしていたようです。

その渡部さんはこの本の中で、冥王星に関する過熱した報道には戸惑ったと語っています。
「冥王星が惑星から降格」という書かれ方は残念で仕方がないと述べています。冥王星は「準惑星」の代表、さらには「冥王星型天体」という新しい代表に選ばれた側面の方が強いとも書いています。
また、「アメリカ人が発見した冥王星を、惑星から外すのを阻止するためにアメリカ人が団結して反対した」という噂がまことしやかに流れたことについても悲しんでいます。真相はこの噂とは大きく異なるようです。

この本は科学の解説書ですが、歴史としても楽しめ、ノンフィクションとしても楽しめ、非常にお得なつくりになっています。
中学生でも充分読み通せます。もしかしたら小学校高学年でもいけるかもしれません。
オススメの1冊です。

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2009年1月7日水曜日

新潮文庫『悪人正機』

著者:吉本隆明、糸井重里
発行:新潮社

今年2009年は吉本隆明さんの本を読んでいこうと思っています。その記念すべき第1弾です。

糸井重里さんが吉本隆明さんの話を聴くという形で展開していきます。
話題は多岐に渡っています。順に書き出すと「生きる」「友達」「挫折」「殺意」「仕事」「物書き」「理想の上司」「正義」「国際化」「宗教」「戦争」「日本国憲法」「教育」「家族」「素質」「名前」「性」「スポーツ」「旅」「ユーモア」「テレビ」「ネット社会」「情報」「言葉」「声」「文化」「株」「お金」と28項目に渡ります。この28項目について「…ってなんだ?」という問いに吉本さんなりの考えが書かれています。
この28項目とは別に吉本さんが入院を通して考えたことも述べられています。

この本を読んでいて、糸井さんが聴いているのを隣で一緒に聴いているような、もしくはちょっと上から2人を見下ろすような、そんな不思議な雰囲気に襲われました。

ここで発せられている言葉が、単純に行儀のいい言葉ではなくて、深い裏付けのある生きた言葉だからこそそのように感じられるのだと思うのです。
糸井さんは吉本さんのこの言葉を、「ザラザラしていたり意表をつくような逆説に見えても、聞いていて気持ちがいいのは、ごまかしたりウソをついていないからなのだ」と表現して、他の評論家・知識人とは一線を画しているところを解説しています。

数日前に読み終わってはいたのですが、今日に至ってもなお頭が整理できないでいます。

今、頭のどこかに引っ掛かっていて、今後自分にとって大きなヒントになりそうなことを列挙します。

○普通・正常の範囲が拡がっていて、法律や専門家の言う枠組みがそれに追い付いていない。
○太宰治の小説の一節「自分はへとへとになってからなお粘ることができます」
○吉増剛造さんにかかると「、」「。」という句読点までもが別の意味を持つ。盛り場で生まれる日本語ではなく、日本語の極限まで行っている。
○居心地のよさは「自由な雰囲気」。
○上司以上に大切なのは、実は「建物」。
○歴史的には、法律よりも宗教が先にあった。
○アメリカの正義は主観的なおせっかい。
○サッカーのようなスポーツの例を見れば、国際化は進んでいるといえる。ジェロの例を見れば文化関係でもそう。
○「信ずること」と「科学的に明瞭なこと」をつなげたい。
○戦争だからといって敵と弾を撃ち合って戦闘することなど滅多にない。事故や病気や衰弱の方がはるかに多い。
○大学に行くことは失恋に似て、がっかりすることが重要。
○円満な家族なんてない。体裁よくしているだけ。家族の数だけ実験が繰り返されている。
○10年やれば誰でも一丁前。毎日やれば掛け算になる。
○自己評価よりも下のことだったら、何でもやっていい。
○「俺はできるんだぜ」の芸だけ見せてたらダメ。
○有名になりたい気持ちは、宝くじを買うときの気持ちと同じ。当たったからといっていいことばかりではない。
○「ユーモア」は生きる力そのものに関わっている。
○分析したい問題を「水」として、「酸素と水素」にあたる情報を見つける。
○株は世界経済の社会的な呼吸作用。
○赤ん坊と同じで意識して歩いているうちはダメ。無意識で歩けるようにならないと。
○タモリの持続力の源泉。自然体で続ける。
○「逸らさない」という魅力。
○管理されている者の利益を第一とする。これは管理する側の不利益にならない。

雑多なメモのような感じになってしまいました。
引用だったり、大胆にまとめたり、自分が思ったことを付け加えたりしています。

今わかることは、「答え」を求めてはいけない、ということです。
自分の頭で考えて、かみ砕いて、自分の言葉で表現できるようになったときに、ようやく自分のものになるような気がします。

負荷は大きいのですが、楽しい頭のトレーニングをしばらく続けていきたいです。

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