2009年8月31日月曜日

宝島社新書『なぜ「あと5センチ」背が伸びなかったのか?』

著者:風本真吾
発行:宝島社

 

 表紙に、あたかもサブタイトルであるかのように次のような文言が記されています。

身長が「伸びるしくみ」「伸びない原因」を医学する

 最近「栄養療法」に傾倒しています。その影響から、本屋や図書館を訪ねると、医学・栄養学関連の書棚にも目を配るようになりました。そんな中で見つけた本です。

 「身長を伸ばす」というと、素人判断で、カルシウムを摂って運動してよく寝ればいいんだろうなんて考えてしまいます。はたまた、身長なんて遺伝で決まるのさと居直ってしまいたくなります。
 「身長」というものを医学の目で見ると、そんな素人判断の多くは誤りであるようです。

 身長は一定のペースで伸びていくものではありません。成長期にはグンと伸び、そうでない時期にはジワジワとしか伸びない。こんなことは当たり前の事実です。けれども、「成長期にどのくらい身長が伸びるのか」とか「成長期前にはどんなペースで身長が伸びるのか」とかを数値として正確に知っている人は少ないでしょう。
 この本にはそんなデータが掲載されていて、そこから導かれる結論として4歳0ヶ月時の身長から最終身長が予測できると宣伝しています。その予測通りの最終身長で収まるのか、それともそれを超える身長になるのか。こんなことを左右するコツも掲載されています。

 類書があまり存在しないという点で、非常にユニークな本であると思います。
 法則やコツなどの事実関連はよく書けているのですが、それを証拠づけるデータが掲載されていないのが残念です。また、他の方の同様の研究からの引用があると、なお良いのですが、そのような記述も見あたりません。このように残念な点もありますが、それを補ってもなお、面白い本です。ああ、なるほどなあ、と思うこと請け合いです。

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PHP新書『食べ物を変えれば脳が変わる』

著者:生田哲
発行:PHP研究所

 

 薬学博士の生田さんによる著書です。食べ物による脳の働きへの影響について解説しています。
 目次から各章の表題を並べてみます。

第1章 あなたの人生を左右する食べ物
第2章 脳を快適にはたらかせる栄養素
第3章 脳に悪い食べ物
第4章 脳にいい食べ物
第5章 うつを撃退する栄養素
第6章 脳をダメにする物質と、その解毒法

 最近「栄養療法」に関する本を精力的に読んでいて、この本も同じ方向を向いた本だと言えます。食事やサプリメントで病を治すことを趣旨としているわけではないので、「栄養療法」の文字こそ登場はしません。けれども、脳の働きをよくすることも、うつや統合失調症といった病から快復するのも、根っこの部分では「栄養」という観点で共通しているのがわかります。
 したがって、ここで紹介されている栄養素は、「栄養療法」で必要とされる栄養素と大きく変わりません。炭水化物・タンパク質・脂肪からなる三大栄養素。その三大栄養素の働きを助けるビタミンにミネラル。大筋で同じことを述べています。

 溝口徹さんの「栄養療法」関連の著書と比較したとき、次のような相違点が浮かび上がります。
 溝口さんは現役医者であるので、患者の症例が豊富に掲載されています。それに対して、この生田さんの著書には、そのような症例は載っていません。立場の違いから必然的に生まれる相違点です。
 また、生田さんは研究者(今では執筆業が中心のようですが……)らしく、論文の引用元がしっかりしています。情報源のありかが確かです。いい加減な推量に基づく議論はしていませんし、情報源の不明な伝聞もありません。自分の身体に起こりうる可能性や危険性を考えたとき、これは安心材料です。

 他にも特徴があります。食事に関して具体的な提案がなされています。
 こういった食事や栄養に関する本にありがちなのが、「あれはダメ」「これもダメ」とバッテンだけつけて回って、結局どうしていいのかわからないものです。しかし、この『食べ物を変えれば~』では、「△△を○○に変えてみると良い」といった改善案が(すべてではないものの)示されています。これは大きな意義を持ちます。読者の方を向いているのがわかります。
 加えてもう1つ特徴を挙げれば、決して無理強いしていないということです。「△△は体に悪いけれども、いきなりやめるのではなく、少しずつ摂取を減らしていこう」「まずは1ヶ月試して身体への変化を見よう」といった前向きな提案がなされています。
 「治療」が主たる目的ではない本書だからこそ生じる特徴だと思います。

 執筆に対する生田さんの姿勢が気に入りました。他の著書も探し出して、ぜひ読みたいと思っています。

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『森博嗣の半熟セミナ 博士、質問があります!』

著者:森博嗣
発行:講談社

 

 科学や理学・工学といったことに関するエッセイ集です。60編のエッセイから構成されています。
 1編1編で扱われているテーマは本格的なのに、語り口はとことん軽いです。テーマと語り口のギャップもまた面白いです。最初から最後まで本当にスラスラと読めてしまいます。あまりにスラスラと読めてしまうので、扱っているテーマが簡単なのではと錯覚してしまいそうです。全くの誤解なのですが。

 本格的な科学書に入る前の導入に適していそうです。「まえがき」で断っているように厳密には間違っていることもあります。けれども、紙面の幅の都合とかみ砕いて説明してあるが故の必要な犠牲です。科学の雰囲気に浸るのにはこれくらいがちょうどいいのでしょう。この本で興味のあるテーマを見つけて、徐々に本格的な科学書に進んでいくのがいいと思います。
 細かいところで正しいとか間違っているとかを議論するのではなく、ただただ純粋に科学を楽しむ。これが、この本に対する正しい姿勢なのでしょう。

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ちくま新書『売文生活』

著者:日垣隆
発行:筑摩書房

 

 明治から平成にいたるまでの「原稿料事情」を綴った一冊です。生活を保障するために「文筆」を生業としている人たちがいかに原稿料に気を使ったのか、この1冊から伝わってきます。

 筆者である日垣さんの姿勢に強く共感を覚えました。それは「お金も自由も」という二兎を追う姿勢です。「お金か自由か」という二者択一への妥協ではありません。
 フリーライターであろうと、文筆業であろうと、小説家であろうと、漫画家であろうと、「表現」することを生業とする人たちには、「お金と自由」という命題は重要です。好ましくない仕事を拒否して好きな仕事ばかり選んでいると、充分なお金が得られない危険性があります。
 そんな危険性を打破すべく心を砕いたのが夏目漱石です。詳しくは本書に読んでいただくとして、漱石の先手先手を打つような交渉に舌を巻きました。そんな漱石と同じくらい感心したのが筆者である日垣さんです。日垣さんがお金の問題にいかにクリアしてきたのか。僕は初めて知ったのですが、業界では有名な話のようです。

 正直なところ、それほど読みいい本ではありません。話題が散漫な印象を受けます。性格から生じるのでしょうか、時々「ツッコミ」も挟み込まれます。それでも、次々と読み進めたくなる魅力があります。不思議な本でした。

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2009年8月8日土曜日

『食事で治す心の病 心・脳・栄養――新しい医学の潮流』

著者:大沢博
発行:第三文明社

 

 医者ではなく大学教授の立場から解説された「栄養療法」の本です。うつ・統合失調症といった病と、栄養との関連について解説した本です。

 『医師が選択した脅威の栄養療法』『診たて違いの心の病』『うつは食べ物が原因だった』の著者である溝口さんは医者であるので、実際の症例・快復例が数多く掲載されています。
 その一方、この『食事で治す心の病』の方は、アメリカで始まった「栄養療法」の起こりが記されています。ビタミンやミネラルといった栄養素のイロハにも詳しいです。

 溝口さんの本を連続して読んでいたら、別の人はどのように解説するのだろうと興味がわいてきました。そこで手に取ったのが、この本です。
 溝口さんにしても大沢さんにしても、その主張内容に大きな隔たりはありません。いわく、食事で栄養を充分にとるのが理想だが、現実問題としてそれは困難だ。だから、サプリメントで補う必要がある。また、砂糖の過剰摂取は危険だ。乱暴にまとめるならば、この3点に集約されます。

 本当はもっともっと多くの人の考えや解説を読みたいのですが、まだまだ発行点数は少ないようです。書き手を増やして発行点数が増えないことには、なかなか(特にマスコミには)注目されないでしょうね。そして、「アンチ本」が出版される暁には、ようやく市民権が得られたと言えることでしょう。

 「栄養療法」が真の意味で日の目を見るのは、残念ながらまだまだ先のようです。がんばってほしいものです。

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『医師が選択した脅威の『栄養療法』』

著者:溝口徹
発行:文芸社

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 この本には特徴が大きな特徴が2点あります。1つは、著者である溝口さんのご夫人が「栄養療法」によって快復する様が描かれていること。2つ目は、栄養療法による血液検査の見方が解説されていることです。

 医者として患者を診察することは多々あるでしょう。しかし、身内が発病し、患者として診察し、その記録を残した例は少ないかと思います。
 発病当初は的はずれの対処をしてしまいます。傍目から見ても、それは違うだろという行動に出ています。そのうち「栄養療法」に出会います。はじめは懐疑的だった「栄養療法」。しかし、だんだん快方に向かっていくご夫人を見ているうちに、懐疑的だった「栄養療法」への考え方が変わっていきます。
 こんなドタバタ、戸惑いが、隠すことなく記されています。身内の病がきっかけとした「栄養療法」との偶然の出会いが、著者・溝口さんの考えを変えていきました。

 ご夫人の発病をきっかけとして、「栄養療法」に傾倒していく溝口さん。「栄養療法」の肝の1つは「血液検査」です。
 健康診断で血液検査をします。普段、僕らは診断票に書かれたABCを見て、一喜一憂しています。けれども、事はそんなに単純ではないことがわかります。
 保険診療で行われる血液検査。ABCの判断は「参考基準値」によって行われます。この「参考基準値」が曲者なのです。不調ではなく健康であろう人たちを集めて、そのデータの分布から「参考基準値」を決めているというのです。わかるようなわからないような、そしてかつ、誤解を招きそうな表現をすれば、「参考基準値」とは偏差値30~70の集団です。このような状況なので、「参考基準値」に適合していても、残念なことに健康ではないということが起こりえます。
 この『医師が選択した脅威の栄養療法』では、「参考基準値」とは異なった基準が提示されています。「この値では、こんなリスクがある」「こういう病になる危険性がある」と具体的な話題に及んでいます。

 「KYB運動」と呼ばれる働きかけがあります。「KYB」とは「Know your body」の略で、つまりは「自分の体を知ろう」という呼びかけです。健康状態での血液検査の状態を把握しておき、血液検査ごとに栄養素などの過不足を調べます。必要に応じて食事やサプリメントなどで栄養素を調整していきます。

 集中して「栄養療法」関連の本を取り上げましたが、まずはこの『医師が選択した脅威の栄養療法』と『「うつ」は食べ物が原因だった!』から入るのをお勧めします。健康に対する関心度合いが変わります。

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『診たて違いの心の病 実は栄養欠損だった!』

著者:溝口徹
発行:第三文明社

 

 前に取り上げた『「うつ」は食べ物が原因だった!』と同じ溝口徹さんが書いた著書です。食事とサプリメントによって病を改善する「栄養療法」を紹介した本です。時系列で並べれば、この『診たて違いの心の病』の方が古い本になります。

 この本を読むと「栄養療法」におかれた課題が2つ浮かび上がります。

 1つ目は、「栄養療法」の知名度が低いことです。患者の側だけでなく医者にも知られていないそうです。「栄養療法」の考え方が浸透していないがゆえに、薬に頼ることなく快復可能な病であるにもかかわらず、不必要な量の薬を飲んでいる実態があります。

 2つ目は、栄養を補うためのサプリメントが高価であるという現実です。
 安価なサプリメントが市中に出回っていますが、それは栄養価が低かったり、吸収率が低かったりなどの問題があります。ヒドいものになると副作用の危険性もあるとか。安全で効果の高いサプリメントが世の中にそれほど出回っていません。いわば寡占状態です。結果的に競争が起きずに、いぜん高価なままです。

 患者・医者・製薬会社。この3者のどれもが「栄養療法」に対する認識を深めない限りは、この現状は変わりません。世の中に「栄養療法」は当たり前だという空気ができて、厳しい目でサプリメントを選ぶ時代が早く来てほしいものです。
 今は、ただ、ささやかながら「栄養療法」に関して現状と問題点を書き記すことで応援したいと思います。

 けれども、ここで1つ苦言を呈したいのです。
 著書の中で溝口さんは、医者の専門家による弊害を述べています。高度に専門化が進みすぎて、総合的な判断ができなくなっており、見当違いの診療が行われている実態です。言ってしまえば「専門バカがばら撒く害悪」です。
 これと同じ構造を、著者の溝口さんにも感じます。つまり、医療、特に「栄養療法」に関してはプロなのでしょう。しかし、それ以外の分野には穴が多数見つかります。「栄養療法」の必要性を訴えている箇所に穴があるので、その論拠が崩れてしまっているのです。
 実例を挙げると、農産物の栄養低下のくだりや沖縄の平均寿命の低下など、聴こえのいい話を引用しています。聴こえがいいがゆえに、すぐに飛びつきたくなります。しかし、そこで根拠とされている事例は疑わしいものです。
 「栄養療法」を広く普及させるために必死なのはわかります。反対派による軋轢も多いのでしょう。だからこそ、その論拠となる部分には、もっと注意を払ってほしいと思うのです。しっかりソースに当たる手間を惜しまないでほしいのです。いらぬ攻撃を受けて浪費している場合ではありません。
 「栄養療法」そのものの有用性は、病を克服した患者さんが証明してくれています。必要性を裏付ける根拠を固めていただきたいと思うのです。

 あと、これは苦言ではありませんが、「栄養療法」を医者だけが考えるのも限界があるように思います。栄養士、料理人、農家、……。さまざまなプロフェッショナルと手を組むことを期待します。医者だけのものにするより、級数的な加速が期待できる気がします。

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青春新書『「うつ」は食べ物が原因だった!』

著者:溝口徹
発行:青春出版社

 

 「栄養療法」という考え方があります。正式名称としては「分子整合医学」、または「オーソモレキュラー療法」といいます。「わたしたちは食べ物によって生命を維持している」ということを前提にしている考え方です。

 ヒトの体は多数の栄養素を元に作られています。筋肉や皮膚などといった体のパーツだけでなく、神経伝達物質などもタンパク質からできています。そのタンパク質はアミノ酸が材料です。そのアミノ酸からタンパク質を合成するのには、ミネラルが必要です。ここではミネラルとは、炭素・水素・酸素・窒素以外の元素からなる栄養素のこと。具体的には、カルシウムやマグネシウム、鉄、鉛などを指します。
 栄養が不足すると、体の調子を悪くするだけでなく、精神的なダメージにもなります。

 「栄養療法」の考え方に照らすと、厚生労働省による「日本人の食事摂取基準」は最低限の基準でしかありません。この基準をクリアしないと、栄養欠乏症により体に不調をきたす危険性があります。
 また、職種(デスクワークが多い、ストレスが多い)や生活習慣(飲酒・喫煙が多い、盛んにスポーツする)によっては、その分だけ栄養を多く摂る必要があります。

 栄養療法の基本は食事です。食事で栄養をしっかり摂るのが基本です。しかし、食事だけで必要分の栄養を摂取できない場合、サプリメントによって栄養を補うのがいいとされています。
 ところが、サプリメントも多種多様。品質も千差万別。悲しいことに、効果がほとんど認められない悪質サプリメントがたくさんあり、サプリメント選びは難しいようです。

 この本は、「うつ」を栄養療法によって治療することを主張しています。けれども、病気にかかる前にこそ体に気を使うべきで、健康の人にも参考になります。一見したところ健康ではあるが、病気に向かっている状態を「未病」といいます。「未病」で食い止めて健康であろうとする考え方は、もっともっと広く浸透するべき発想だと思うのです。
 タイトルにある通り、「うつ」の人にだけではなく、健康、ならびに未病な人にも勧めたい1冊です。


 他にも、この本で書かれている「栄養療法」の一部を書き記します。引用ではなく適度に要約しています。

▼「糖分」でやる気が高まるのは一時しのぎの効果でしかありません。
 糖分を摂ると血糖値を下げるインスリンが出てきます。インスリンはアミノ酸からタンパク質を合成します。結果、(他のアミノ酸が減ることで)トリプトファンの比率が高まります。トリプトファンはセロトニンの原料で、そのセロトニンがやる気を高めます。
 つまり、糖分はセロトニンの絶対量が増えるわけではなく、他の物質の絶対量が減ることでセロトニンの相対量が増えるだけです。

▼脂質は細胞膜やホルモンの材料。特に、コレステロールは、細胞の形と柔らかさを決めていて、人間の体にとって重要な栄養素です。
 細胞はヒトの体におよそ60兆個ほどあり、複数の細胞が組み合わさって、それぞれの役割を果たしています。

▼スナック菓子などに多く含まれるリン酸は、ミネラルの吸収を阻害しています。ミネラルが減ることで、例えばアミノ酸がタンパク質に合成されにくくなります。

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