著者:上田惇生
発行:ダイヤモンド社
この『ドラッカー入門』を通読した今、この人物を形容するうまい言葉が見つかりません。どう紹介したら伝わるのか、キーボードを前にして困惑しています。
ピーター・ファーディナンド・ドラッカー。1909年に誕生。2005年に惜しまれつつ95歳で鬼籍に入りました。生涯にわたって扱ってきたテーマは多岐にわたります。ドラッカーが扱ってきたテーマを本書に書かれたままに引用します。
社会・政治・行政・経済・統計・経営・国際関係・アメリカ・ヨーロッパ・日本・宗教・歴史・哲学・倫理・文学・技術・美術・教育・自己実現
(ixページより引用)
尋常ならざる守備範囲の広さです。どの分野においても超一流だったといいます。観察力・考察力・表現力に優れ、数多くの著書・論文を生み出す原動力になりました。
ドラッカーの多才さについて、この本の著者である上田さんは次のように表現しています。
それら異分野のものが出会い、衝突し、合体し、融合し、爆発していたのが、ドラッカーの頭の中である。
(ixページより引用)ドラッカーは自分自身について、規制の学問体系による○○学者という自己規定をしない。いかなる分野も中心に位置づけることを嫌う。あらゆる分野が有機的に絡み合い、あらゆる分野があらゆる分野に関わりを持っているからである。そして、あらゆるものが無数の側面を持っているからである。
(xページより引用)
ドラッカーが出版した書籍は各国の言語に訳され、どれもベストセラー。会社経営者や社長・経済の専門家といった限られた人物にだけでなく、医者・大学生・NPO職員・政府職員から一般のビジネスパーソンに至るまで愛読されています。
当然、日本語版も販売されています。ほぼすべての日本語版の翻訳に携わっているのが、この本の著者である上田惇生さんです。ドラッカーのことを語らせたならば、他に右に出る者はいないといいます。
さて、9月か10月の頃だったでしょうか。『ほぼ日刊イトイ新聞』でこのドラッカーが特集されました。「はじめのドラッカー」という名の特集です。上田惇生さんと糸井重里さんがドッラカーについて語り合ったものです。
それまでもビジネス雑誌でドラッカーの名前はたびたび目にしていました。しかし、ドラッカーの偉業であるとか、功績であるとか、影響力であるとか、いまいちピンときていませんでした。その理由がこの本のおかげで氷解しました。雑誌の数ページの特集なんかでは、ドラッカーは語り尽くせないのです。ピンとこなかったのも無理はありません。
『ドッラカー入門』が僕にとってドラッカー初接触となったわけですが、読み終えた今、この本を紹介していたほぼ日の記事に感謝しています。まさに「入門」にふさわしい内容でした。
ドラッカーをたとえて言えば「名レストラン」です。そこで饗される料理、もとい言論の数々はどれも一流です。どれも名士に愛された折り紙付きの味。しかし、「どれも」というのは初めての客にとっては困惑の材料です。メニューを前に惑うばかりです。
膨大に立ち並ぶメニューの中から初心者向けのおすすめを紹介しているのが『ドラッカー入門』です。それはまるで良質の「グルメ番組」のようです。
映し出される名店。おすすめのメニュー。繰り出される巧みなシェフの技。レポーターは料理を口に運び、巧みな言葉でおいしさを表現。こだわりと情熱を伝えたシェフへのインタビュー。付加されるお得情報。興味を持つ視聴者。足は思わず店へ。
そんなグルメ番組のごとく、『ドラッカー入門』はドラッカーの魅力を伝え、初めての読者を誘うすばらしい本です。しかもただ1つの料理を紹介するだけではなく、いくつもいくつも料理が語られます。ドラッカーの奥深い世界を垣間見ることができ、さらに奥をのぞきたくなる欲求に駆られます。その意味でこの本は「宝の在処を数多く示した地図」であるとも言えます。
ドッラカーの手がけた仕事があまりに膨大であるために、読者が興味を持つポイントはバラケてしまいます。裏を返せば、どんな読者にとってもドラッカーを活かすことができる、ということでもあります。
僕自身、強く関心を抱いたのは「知識労働者」に関する記述です。組織内の知識労働者の割合が増加していく世の中にあって、かつての組織のあり方ではたちゆかないことが示されます。知識労働者個人としてのあり方、ならびに、知識労働者を束ねる組織のあり方。そんなことをドラッカーは著書の中で語っているようです。次に向かうべきはその方向と定めています。
巷にあふれるハウツー本なんかでは味わえない興奮が味わえます。我が身の行動を振り返り、新たに決意や目標が生まれます。知的好奇心が刺激され、自分の中に思考のベースが新たに体系化されます。
数多くの人にこの興奮を味わってもらいたいものです。おすすめです。
巻末のドラッカーの著者紹介が壮観です。3~4行ずつで本の内容をまとめてあるので、次に何を読むかを決めるガイドとなります。本文と合わせて参考にするといいと思います。
僕の目を引いたのは、次の4冊です。
(1) はじめて読むドラッカー〔自己実現編〕
『プロフェッショナルの条件――いかに成果をあげ、成長するか』
(2) はじめて読むドラッカー〔マネジメント編〕
『チェンジ・リーダーの条件――みずから変化をつくりだせ!』
(3) はじめて読むドラッカー〔社会編〕
『イノベーターの条件――社会の絆をいかに創造するか』
(4) はじめて読むドラッカー〔技術編〕
『テクノロジストの条件――ものづくりが文明をつくる』
早いうちに(1)(2)を読むつもりでいます。読後にはその記録をブログにアップします。
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