2009年12月24日木曜日

『ザ・コピー・ライティング――心の琴線にふれる言葉の法則』

著者:ジョン・ケープルズ
監訳:神田昌典
訳:齋藤慎子、依田卓巳
発行:ダイヤモンド社

 

 反応をより多くし売り上げ向上につなげる広告を書くためのノウハウがまとめられた本です。いわゆるビジネス書・実用書にあたります。
 ここでいう広告とは、チラシ、新聞・雑誌の広告、DMといった紙ベースの広告です。

 著者であるジョン・ケープルズが重視するのは、とにかく結果。反応や売り上げの成果です。「おそらく」「なんとなく」といった根拠のない判断を排除します。繰り返し繰り返し実戦テストを行い、評判の芳しくなかった宣伝をふるい落とし、生き残った宣伝を集め、エッセンスを抽出し、磨き上げた手法を大事にします。
 数年に渡ってケープルズの集めた手法が、惜しげもなくこの本で公開されています。
 「効果的な見出し3パターン」「見出し成功例10本」「成功した見出し4つの秘訣」「35の見出しの型」「お薦めのコピー13タイプ」「コピーの売り込み効果を高める20の方法」「こうすればもっと問い合わせが増える32の方法」――ここに掲げたすべてが掲載されています。どれも複数回のテストに耐えた手法ばかりです。
 こういった手法解説の合間合間に具体例が数多く掲載されています。成功例だけでなく失敗例もたっぷりです。読者である僕らはその具体例を確認しながら1つ1つ手法を身につけることができます。
 こういった手法を身につけることで、僕らは自信と確信を得ることができます。少なくとも、地雷の存在を確認しながら進むことができます。地雷の存在を知って進むのと、知らずに進むのでは大きな違いです。絶対的に成功率が高まります。
 ケープルズが書き記しているのは広告そのものだけではありません。多くの会社に生息すると思われる「私の経験によると~」なんかと口にしながら、おそらく&なんとなくで判断する上司に対抗する手段まで書いているのです。実にユニークです。現場で活躍し続けたケープルズだからこそ書けた芸当です。

 この本で気に入った点は応用範囲の広さです。懐の広さと表現してもいいかもしれません。
 特定の業界であるとか、特定の媒体とか、そんな限定がありません。しかも、応用範囲は紙ベースの広告にとどまりません。
 「目を引く」「興味を持ってもらう」ことを目的とするのであれば、本のタイトルや帯、商品紹介のポップ、記事のタイトルにも活かせます。ウエブやメールでリンクをクリックしてもらう目的でも、このノウハウは生きてきます。ツイッターでリンク先に誘導するのにも応用できそうです。テレビやラジオのCMは言うには及ばず、さらには営業マンのトークにも有効だと思うのです。
 つまり、この『ザ・コピー・ライティング』がカバーするのは、読者に次の行動を促すものすべて、だといえます。ノウハウを寄せ集めただけの巷にあふれるビジネス書とは比べものになりません。

 しかし、残念ながら不満がないでもありません。
 なんといっても重複が多い! 念を入れるとか復習のためにとか、そういった読者のためではありません。版を重ねて書き足していくうちにといった感じの重複です。同じことを同じような言葉で繰り返すのには辟易します。
 章ごとにバラバラな印象も受けました。導入の文章から始まる章、まとめで締めくくる章、そのどちらも存在しない章。見事にバラバラです。
 訳語の不統一感も気になりました。複数人で翻訳している以上仕方がないのでしょうが、後半を担当している人の「横文字好き」ぶりはいかがなものかと。自然な日本語が思いつかなかったから、横文字のまま逃げた感じが行間・文字間からにじみ出ています。

 翻訳書にありがちな読みにくさは拭えません。それでもこの『ザ・コピー・ライティング』は読むに値する良書です。日本人が書いた類書もおそらく存在するのでしょうが、少なくともこの本は読んで損はしません。
 目を引くための手法はどんな職業であれ必要とするスキルです。そんなスキルを学びたい多くの人にオススメです。

 最後にどうしてもツッコミを入れたいことを1つ。
 サブタイトルの「心の琴線にふれる言葉の法則」。このサブタイトルそのものが、失敗例をきれいになぞったものになっているという大失態。
 どんな失敗例かって?
 それは読んでのお・た・の・し・み、ってことで!

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2009年12月22日火曜日

新潮文庫『ウケる技術』

著者:小林昌平、山本周嗣、水野敬也
発行:新潮社

 

 「ウケる技術」を分類、体系化し、コミュニケーションスキルの向上を目的とした本です。……なんですが、どこまで本気なのか僕にはつかめません。
 体裁はいたって真面目然としています。なのに全体のトーンが常に滑稽。「ウケる」ことを目的としているので、実例も必然的に「ウケ」をねらってきます。それが滑稽さを生む原因となるのでしょう。

 掲載された「ウケる技術」の数は40。加えて8つの「ウケるメールの技術」もまとめられています。
 1つ1つは「なるほどなぁ」と思わせるものです。しかし、これをまとめて習得するのは不可能。一気に身につけるのではなく、自分の得意の型を作るところから始めるのがいいのではないでしょうか。自分の型を見つけるのに、こういった技術をまとめた本はありがたい存在です。
 もしかしたら、小説やマンガなど物語を表現する人にとって福音の書になるかもしれません。キャラクターづくりの参考となりえます。

 この本を読んで何かが劇的に変身することはありません。けれども、困っている人の指針となります。「ウケ」でコミュニケーションを円滑にしたい人は手に取ってみてはいかがでしょうか。

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2009年12月19日土曜日

生活人新書『大人の英語発音講座』

著者:英語音声学研究会
  (清水あつ子、斎藤弘子、高木直之、小林篤志、
   牧野武彦、内田洋子、杉本淳子、平山真奈美)
発行:NHK出版

 

 英語の発音とリスニングについて、日本人が陥りがちな過ちを取り上げながら詳しく解説した本です。

 発音記号は便利ではあるけれど、決して万能ではないことがわかります。意識はしていないけど耳に馴染みのある具体例が並べられ、そのおかげで1つ1つの解説に合点がいきます。
 "pudding""Get up!"が「プリン」「ゲッラップ!」と発音される理由も、"twenty"が時に「トゥエニー」と書かれる理由も氷解します。"umbelievable"を「アンビリーバボー」と"l"の音を表記しないのも全く問題ありません。「ロックンロール」を表す"rock'n'roll"が単純な略語ではなく、発音上、自然であるのもわかります。
 こういった学校であまり教わることのない、英語発音上の原則が登場します。

 日本語と英語の違いを示す事例も白眉でした。「大きな古時計」の日本語詩と英語詩を並べて、その違いを明確にしました。
 日本語詩で「おーおーきなのっぽのふるどけい おじいーさんのとけいー」の部分。この部分に合わせて、次の英語詩を歌ってみてください。

My grandfather's clock was too large for the shelf,so it stood ninety years on the floor.

 歌えましたか? 英語詩の方が無理に詰め込んでいるわけではなく、これが英語にとっては自然なのです。
 そんな英語と日本語の違いもはっきりします。

 目から鱗な解説が数多くあった中で個人的に一番ヒットだったのは、「単母音+子音」で終わる動詞にingを付けるとき、その子音を重ねる理由です。長年の疑問がようやく解けました。131ページを中心にその理由が書かれています。気になる方は、ぜひご自身の目で確認してください。

 本のタイトルに「大人の~」とありますが、現役中学生・高校生にもオススメです。もちろん英語の指導に当たっている先生にも読んでいただき、指導に活かしてほしいところです。うまく説明できれば、尊敬を集められるかもしれませんよ!?

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文春文庫『われ笑う、ゆえにわれあり』

発行:文藝春秋
著者:土屋賢二

 

 「笑う哲学者」こと土屋賢二さんの処女作となるエッセーです。デビュー作品からトバしてます。

 この面白さを伝える方法も技量も、残念ながら僕には持ち合わせていません。ここはひとつ、本文から文章を引用してくることで、その面白さを伝えることに変えたいと思います。

 献 辞
 本書を完成できたのは、多くの人々のおかげである。それどころかこの人々がいなかったら、そもそも今のわたしというものがありえなかったと言っても過言ではない。苦しみ、悩み、トラブルをいまのわたしがもっているのも、経済力、自由、明るさといった貴重なものをいまのわたしがもっていないのも、すべてこの人々のおかげなのである。もしこの人々がいなかったら、そして忠告や助言をいただかなかったら、本書は今日よりずっと以前に完成していたことであろう。

(3ページより引用)

 すべてがこの調子です。
 笑いのタネは身近にあるものすべて、ご夫人・同僚・学生など多岐に渡ります。ワープロや洗濯、タバコにも目が注がれます。愛や老化、健康といった抽象的な概念にも及びます。そして、女性をテーマにした(というよりおちょくった)エッセーは定番です。

 巻末に柴門ふみさんによる解説が掲載されています。
 柴門さんは土屋先生の教え子だったとか。教え子である柴門さんからみた土屋先生の人となりが見えてきて、ようやく「土屋賢二」という実像が見えてきた気がします。なんせ、この人は自分自身すらもおちょくって、笑いのタネにしてしまう方ですから。

 読んで損はありません! 漫才やコントとは違うお笑いの世界が待っています。オススメです。

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『魅了する無限 -アキレスは本当にカメに追いついたのか-』

著者:藤田博司
発行:技術評論社

 

 「無限」をテーマにした数学書です。とはいっても専門書や教科書ではなく、一般に向けたものとなっています。
 「1=0.9999……」やヒルベルトホテル、ラッセル集合、カントールの連続体仮説など無限にまつわる定番のネタは網羅しています。ゲーデルの不完全性定理には深く踏み込まず、軽く触れる扱いです。
 特に「ペアノの公理」で自然数を定義してから、自然数→整数→有理数→実数→複素数と順に定義していくくだりがきれいにまとまっています。実数の集合が可算集合ではないことを示す説明も、いわゆる対角線論法を使わずユニークな方法で語っています。
 ただし、表題にある「アキレスは本当にカメに追いついたのか」には答えていません。引っ張って引っ張って、結局答えを出さずじまい。正直、ズッコけました。あえて答えていないのか、それとも答えられないのか。僕には判定できませんでした。

 「無限」をテーマにした数学書を読むのが好きです。
 数学の中でもロマンのある面白いテーマだから、というのが1つの理由です。比喩やたとえ話など作家の工夫の余地に満ちています。
 もう1つの理由が、その記述を読めば筆者の見地が伺えるところです。複雑なテーマを正面突破で扱うのか、巧みにボヤかすのか。そういった姿勢が浮かんでくるのです。「ああ、実はこの人、よくわかっていないで書いているなあ」なんてのもバレてしまいます。
 その意味では「アキレスとカメ」のテーマにも簡単には手を出せません。自信満々に手を出して火傷するところを散々見てきました。「アキレスとカメ」を扱った本をいろいろと読んできて、ゴマカさずきちんと答えきった本に僕は1冊しか出会っていません。
 2冊目の出会いを求めて関連書をむさぼっているのですが、その出会いはまだ果たせていません。

 校正不十分なのか勘違いなのか(数学的な)微妙なミスも散見されますが、全体としては読みごたえのある本です。無限について珍しいアプローチの解説を求めたい人はどうぞ。

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2009年12月5日土曜日

『クヌース先生のドキュメント纂法』

著者:ドナルド・エルヴィン・クヌース、トゥレイスィー・リン・ララビー、ポール・モリス・ロバーツ
訳者:有澤誠
発行:共立出版株式会社

 

 パソコンで数式を美しく表現するTeX(テフ)というソフトがあります。そのソフトの生みの親、ドナルド・E・クヌース。「コンピュータの神様」とも呼ばれ、世界中で尊敬を集めている人物です。
 そのクヌースが1987年にスタンフォード大学で「数学作文法」という講義を行いました。その講義を下敷きに出版したのが、この『ドキュメント纂法』です。
 「纂」は「算」の誤字や旧字体ではありません。「纂」は「集める」「編集する」といった意味です。つまり、『ドキュメント纂法』とは、文章を書くための作法・心構えを広く集めた本であるといえます。

 とはいってもただの文章術の解説ではありません。類書にない特徴が3つあります。
 「数学作文法」の講義が発端であるように、数式を交えた文章(レポートや論文)の書き方の注意が細かくなされています。これが第1の特徴です。原文が英語なので、日本語レポートや論文にはそぐわない注意も多いのですが、それを補ってもなお傾聴に値します。
 第2の特徴は、「コンピュータの神様」らしくプログラム作法やPCでの表現に言及していることです。他で見られない記述が多く、読む価値は十分です。
 第3は、講義を基に原稿を起こしているので、ライブ感が全体に漂っていることです。親しみ度が違います。また、クヌースだけが講義しているのではなく、ゲスト講師も登場します。そのゲスト講師の存在が講義の内容幅を持たせています。

 僕がこの本に興味を持ったのは、Twitterで『数学ガール』の結城浩さんのつぶやきを読んだからです。数学混じりの文章を書くならば、『Mathematics Writing』(ドキュメント纂法)を読むべきとの内容でした。
 まさにおすすめの通りでした。反復になりますが、数式を含む文章(レポート・論文・書籍)を書くのであれば、一度は目を通すべき1冊です。

 ところで、この本の後半、131ページから「Mary-Claireの作文課題プリント」なる作文講義が登場します。この作文課題プリントは、作文技能を向上させるためのエクササイズです。大項目だけで12にわたり、その数は多いのですが、知られていない課題も多く、もっと広く知られていい内容もあります。
 原文は英語であるため、そのまま日本語のエクササイズになりえない課題も散見します。原文と翻訳を参考にしながら、この「Mary-Claireの作文課題プリント」を再編集しました。ブログにアップしたので、興味のある方はご覧ください。

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『ツチヤ学部長の弁明』

著者:土屋賢二
発行:講談社

 

 著者である土屋賢二さんはお茶の水女子大学で哲学を専門として教鞭を執っています。哲学が専門といえど、この本には堅苦しさが微塵もありません。どのページをめくっても炸裂するジョーク。「笑う哲学者」の異名はダテではありません。

 本書を読んで、こういう笑いの取り方にあこがれを抱きました。……いや、どんな「こういう笑い」なのかと問われると、説明は困難なのですが。
 ダジャレやギャグで笑わすわけではありません。真顔で面白いジョークを言うイメージと言いましょうか。読者の「次はこう来るだろう」という予想をことごとく変化球で裏切るのです。予定調和なんて存在しません。
 1つだけ具体例を挙げてみます。土屋さんが学部長に就任し忙しくなり、劣悪な生活になったことを述べた後での一幕です。

 電車で読む本にしても、以前のようにミステリーや哲学論文を読みながら居眠りするという余裕がなくなり、議事録や報告書を読みながら居眠りするようになりました。
(32ページより引用)

 ……ここだけ抜き出して、面白さがうまく伝わっているでしょうか。伝わっていない気がしてなりません。僕の笑いの沸点が低いわけではないはずです。本で読むと面白いのです。
 こういったジョークが畳みかけるように襲いかかってきます。ジョークの波状攻撃です。

 うーん、説明すれば説明するほど、弁解しているようで説得力が落ちますね。
 本当に笑えます。本当に、本当なんです! おすすめです!

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『すごい言葉 実践的名句323選』

著者:晴山陽一
発行:文藝春秋

 

 英語の名言を集めた本です。とはいっても人口に膾炙した有名な名言を並べたのではなく、どちらかといえば知名度の低い名言です。世に埋もれている名言を丁寧に拾い集めています。類書との大きな相違点です。

 本書からその名言をいくつか引いてみましょう。

 はじめに引用するのは「人間」について述べたこの名言です。人間の限界をさらりと表現するだけでなく、人間のエゴをも伝えています。

Man is a complex being: he makes deserts bloom --- and lakes die. (Gil Stern)
人間は複雑な生き物だ。砂漠に花を咲かせる代わりに、湖を涸らす」(ジル・スターン)
(34ページより引用)

 次に「死」について扱ったこの名言です。突拍子もない突き抜けたたとえが、些末な出来事に躊躇しているちっぽけな僕らの背中を押してくれるようです。

The crash of the whole solar and stellar systems could only kill you once. (Thomas Carlyle)
たとえ太陽系と天体の全部が壊れたとしても、君が死ぬのは一回きりだ」(トマス・カーライル)
(27ページより引用)

 今度はウイットに富んだ名言を1つ。「健康」の項目からの引用です。英語名言らしいクスリと笑える内容です。

Eat as much as you like --- just don't swallow it. (Steavens Burns)
好きなだけ食べよ。ただし、呑みこむな」(スティーヴンズ・バーンズ)
(151ページより引用)

 このような名言が323句、コメントとともに掲載されています。英語を原典としていますが、すべてに丁寧な日本語訳が付いています。
 その訳は自然な日本語を意識した意訳。その意訳と元の英語を比べるのも理解が深まります。

 名言を収集し、コメント・訳を添えているのは晴山陽一さん。この本を読むまでは、英語学習本を書く方という印象を持っていました。『英単語速習術』『英熟語速習術』『たった100単語の英会話』といった著書を目にしたことがあったからです。
 実際、英語教材の開発も行っていたのですが、今では出版社から独立。『独立して成功する!「超」仕事術』といった本も出版して、マルチに活躍しているようです。

 教養を深めるのにもいいのですが、英語を学習するための例文集としても活用できそうです。本書の助けを借りれば、気の利いた文法や単語を解説する例文をいくつも作れます。おすすめです。

 最後に、この名言を引用して締めくくります。思考停止には陥りたくないものです。

There are two ways to slide easily through life; to believe everything or to doubt everything; both ways save us from thinking. (Alfred Korzybski)
ラクに生きる術が二つある。すべてを信じるか、すべてを疑うかだ。どちらの場合も考えずにすむ」(アルフレッド・コージブスキー)
(117ページより引用)
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